東電が柏崎刈羽再稼働へ準備着々、世論分断の再燃も


(左が沸騰水型軽水炉BWR)、右が加圧水型軽水炉(PWR)。今中哲二氏著書より)

(3/30 8時04分 ロイター通信配信)

東京電力が、最大の経営課題である柏崎刈羽原子力発電所新潟県)の再稼働に向けた準備を着々
と進めている。原子力規制委員会が策定中の新安全基準を満たす設備面での対策は、2013年度内に
は一通り要求が達成できるとの見通しを29日の会見で明らかにした。

未曾有の事故を起こした東電による原発再稼働は、世論の少なからぬ反発を招くのは必至だが、実
現しない場合は電気料金の再値上げが現実味を帯びる。このため、柏崎刈羽再稼動の是非をめぐっ
て昨年の関西電力大飯原発再稼働時と同様、激しい世論の分断が起きる可能性も否定できない。

<設備対策、新基準満たす対策は可能>

東電はこの日、昨年秋に立ち上げた「原子力改革監視委員会」を開催し、福島第1原発事故について
「防げなかった結果を真摯に受け入れる必要がある」などと総括した。委員長を務めたデール・
クライン氏(元米国原子力規制委員会委員長)は記者会見で、「東電の安全文化が世界トップレベ
にあるとは言えない」と指摘した一方で、柏崎刈羽原発の再稼働については「安全対策で追加的措置
が取られているとを評価している」と、前向きと受け取れる見解を示した。

クライン氏が退席した後に広瀬直己社長が会見。同席した姉川尚史・東電原子力設備管理部長は、
原子力規制委が7月に施行する新安全基準への柏崎刈羽における対応について、「設備面については、
それほど時間をかけずに新安全基準を満たす対策は取ることは可能だと思っている」と明言した。

<沸騰水型で再稼働一番乗りも>

規制委が2月に骨子案をまとめた新安全基準は、福島事故の反省に立ち、従来は原子力事業者任せに
していた過酷事故対策を法的に義務づけていることが柱の1つ。その主要項目が、緊急時に原子炉
格納容器の圧力を下げるために蒸気を外に放出する際に、放射性物質を除去する「フィルター付き
ベント装置」だ。国内の原発には未導入の設備だが、規制委は、福島原発と同じ「沸騰水型軽水炉
BWR)」には再稼働時点で義務づける一方で、BWRと構造が違う「加圧水型軽水炉(PWR)」には
猶予を認める方針を示している。

BWR保有する電力会社は、「過酷事故対策の実施とフィルターベントの設置で数億円、2、3年
かかる」(中部電力)としている。中部電のほかBWRを採用する他の地域独占電力(東北電力
中国電力北陸電力)に先行して東電は柏崎刈羽7号機で1月、1号機で2月にフィルターベントを
着工済み。「13年度内には完成すると思っている」(姉川氏)として、原子力規制委による新安全
基準の下での再稼働審査申請への名乗りでは、BWRタイプでは柏崎刈羽が最速になる可能性がある。

<再稼働の本音と建て前>

ただ、東電は柏崎刈羽の再稼動に慎重姿勢を崩していない。広瀬社長は会見で、経営再建に向けた
「総合特別事業計画」において、「(柏崎刈羽の)再稼働計画は持っていない」と述べた。総合
計画では、2012年度から10年間にわたる収支計画が記載されており、13年4月から柏崎刈羽を順次
再稼働することを前提に置いている。この点について広瀬社長は、昨年実施した電気料金の値上げ
を申請した際の前提だと説明、「改革をしないと原発を動かす資格がない」とし、再稼動ありきでは
ないと強調する。慎重姿勢の背景には事故の当事者として、柏崎刈羽の再稼働には昨年の関電大飯
原発の再稼働決定以上に強い世論の反発の可能性を意識しているとみられる。

10年間の収支計画とその前提となる柏崎刈羽の再稼働は、総合計画の政府認定に伴い決定した金融
機関からの1兆円融資の前提でもあり、放置はできない問題だ。4月からの再稼働は、新安全基準施行
が7月なので前提が崩れているため、総合計画について広瀬氏は、「いずれ見直す必要がある」と述
べる一方で、時期については「国と議論を進めるので言いにくい」と質問をかわした。ただ、ある
関係者は「総合計画の見直しは秋になる」と話す。

<再稼働か再値上げか>

7月の新安全基準の施行により規制委は3つの検査チームを編成し、各電力から提出される安全審査に
あたる。これまでのところ、関電高浜原発九州電力川内原発四国電力伊方原発などが13年度の
スケジュールに上る可能性があるが、いずれもPWRタイプで、西日本に偏る。東電の説明通り、13年度
中に柏崎刈羽の設備面での安全対策が完了すれば、東日本に拠点を置く産業界から「柏崎刈羽の安全
審査を急げ」との声が高まる可能性もある。

柏崎刈羽の安全審査が遅れた場合、電気料金の再値上げが避けられない情勢だ。経済産業省は昨年
11月、「事業者の自助努力の及ばない電源構成の変化があった場合」で、火力発電の燃料使用量
アップによりコスト負担が増大した場合は、抜本的な原価の見直しを行うことなく、料金の値上げを
可能とする省令改正を行った。昨年の電気料金値上げで認可を受けた東電にはこの方式で、従来に
比べ簡易に値上げが認められる可能性があり、再値上げの制度上のハードルは前回に比べて高くは
ない。