福島第一の日常、元作業員が漫画に 異例の初版15万部

15万部!

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(4/26 16:20 朝日新聞デジタル配信)


東京電力福島第一原発の作業員の日常を描いた漫画「いちえふ」が話題だ。昨秋から漫画誌「モーニング」
講談社)で連載が始まり、23日に発売された単行本第1巻は、無名の漫画家としては異例の初版15万部を
出荷。声高な主張はなく、作業員の目から見た「福島の現実」を、克明に、淡々と記している。

作者は竜田一人(たつたかずと)さん(49)。大学卒業後、職を転々としながら漫画家としても活動してき
た。転職を考えていたころ、東日本大震災が起きた。高給職場を求めつつ、日本に住む者としてできること
はないかとの思いもあり、2012年6月から半年間、地元で「いちえふ」と呼ばれる福島第一原発で働くこと
になった。

作品の特徴は微に入り細にわたる描写だ。敷地内に入り作業を終えて出るまでの、マスクや防護服といった
装備、放射線量のチェック手順などは、まるでマニュアルのよう。作業前の「ご安全に!」といったかけ声
や、被曝線量のチェック装置から4回目の警告音が鳴ると作業終了という、経験者こそが知る細部も描かれて
いる。

「敷地内の風景など、漫画家としては興味深かったけど、当時は働くことでせいいっぱいでした」という竜
田さんが描き始めたきっかけは、年間被曝限度量に達していったん都内の自宅にひきあげ、世間一般に流れる
報道に触れたことだった。

「自分が現場で見たものと報道されているものとにギャップを感じた。虐げられて悲惨な状況という風に語ら
れがちですが、ほかの仕事場と変わらない。敷地内で普通に食事もするし、馬鹿話もします。ただ、防護服で
の作業は生理的につらかった。暑いし、鼻がかゆくてもかけない。トイレも面倒なので、なるべく水分を取ら
ないようにしていました」

そうした日常の描写もあってか、作品を覆うムードにはどこかおおらかさがある。作業に従事した人から、現
場の描写に懐かしさを覚えるといった反響が届くという。

連載は継続中だが、ひと区切りついたら、現場に戻りたいと思っている。

「漫画が評判になり、金銭面はひと息つけましたが、あの現場を見届けたい気持ちは増している。半年いただけ
でも、敷地内の風景はものすごく変わっていった。例えば、全面マスクが必要な場所が簡易なマスクになったり。
終わりは見えないけど、少しずつ進んでいる。あの職場がなくなるまでの過程を、作業員として見続けたい」
野波健祐